そらを自由に飛びたいな

おっさんのぼやきです。

ニタイとキナナ


ニタイとキナナ

ニタイとキナナ


縄文人の夫婦ニタイ(♂)とキナナ(♀)が村で生活する姿を描いた物語です。
ニタイは漁師。耳があまりよくない為、湖に罠をしかけて魚やエビを獲る罠漁を生業としてます。
キナナは村一番の美人、という設定ですが普通の女です。

  • 作者の知識すげー。

何よりもまず目に付くのが作者の縄文に対する知識です。
作者はアマチュアながら発掘にも携わるほどの遺跡マニアだそうで、その研究と実験の経験から、登場人物の衣食住が丁寧に描かれています。おそらく縄文時代と言うと「原始人と変わんないでしょ」と思う人も多いと思いますが、全く違う生活です。少なくともこの漫画に描かれている縄文人は一年中食料に困ってませんし、生きる事に必死、という事もあまりありません。
そして男は相変わらずバカです。変わんないなあ。

  • しゃけー!

現在の岩手県付近を題材にしている為か、秋になると村中総出で鮭獲りです。その漁法も「つかみ取り」と豪快なもの。
川をさかのぼる鮭を袋小路に誘導してそこに入ってきた鮭を捕まえます。この袋小路は川全体を覆うようなものではなく、逃げられる鮭も多く出るようにしてあります。今でいう「漁獲制限」ですね。
その理由も「絶滅させない為」「上流にある村の為」「他の動物達の為」と非常に余裕があります。
女も男も鮭を素手で捕まえようとバタバタしてます。ですが、この当時、網漁はちゃんとありますから、これは一種のお祭りなのだと思います。
また、鮭に関する考え方も面白く、命をエネルギーと考えると川の流れというのは陸のエネルギーをどんどん海に流してしまうものであり、ほっとくと全ての命が海に流れてしまう。そうならないように海のエネルギーを陸に持ち帰ってくるのが鮭なのです。
なので、その名も『御鮭様』です。

  • 出産と流産。

キナナは一度、流産を体験していて妊娠を心待ちにしてます。が、この流産の扱われ方が「供養」ではなく「産み直し」というのが女性社会だな、と思います。
命のエネルギーは確かに宿ったけれど、体の形成で失敗してしまった。だから、今度は体の形成からのやり直しで「あの子が戻ってきますように」とキナナは祈ってます。
(流産経験者でこういう事を言う人多いですから女性の自然な考え方なのかもしれませんね)
安産祈願のお守りが一見すると恐いですが慣れるといいかもしれない、と思えてきます。

  • 巫女がリーダー。

といっても神社にいるバイトのアレではなくて、オババ様です。
占いも医者も村の計画も全てオババ様の仕事です。でも、まか不思議な魔法が使える、というようなファンタジーな話ではなく統計学と計算の賜物です。計算尺を持って食料の備蓄を数えたりもしてます。

  • 読者層。

過激な表現や性的表現は全くといっていいほど無いので、漢字が読める年齢なら小学校高学年でもイケると思います。

  • まとめ。

縄文というテーマにもかかわらず、文字による説明が少なめで読みやすいです。
説明漫画に終わらずきちんとストーリー仕立てになっていて、その伏線も序盤から色々と張られていたりします。
読み終わるとちょっと遺跡とか博物館に行ってみたくなります。