そらを自由に飛びたいな

おっさんのぼやきです。

新年2日目にしてフラグポッキー。

 
実家から埼玉の部屋へ戻る途中。
長い長い、特急列車から新幹線へと乗り継いで品川駅まで。
さらに山手線で渋谷駅へ。
 
そこから埼玉の部屋まで一直線。。。のはずだった。
 
渋谷駅で乗り込んだ女子一名。
やたら大荷物で、カバンが多い。
イメージとしては、じゃんけんに負けてランドセルを大量に運ぶはめになった小学生のソレに近い。
床にまでバッグを散らばらせていて、そのバッグもデザインに整合性が全くない。部屋中のバッグを洗いざらい持って来ました、って感じ。
 
身なりは小奇麗にしているのに、やってることは小学生のランドセル運び。何かワケアリかー。
と思った時点で、女子が眠り込んだ。
車内が空いてるせいでやたら目立つ。
 
一駅過ぎ、二駅過ぎ、まだ寝てる。
たくさん人が降りるターミナル駅を過ぎても、まだ寝てる。
 
あの子はどこに行く気だ? と思いつつ見てたけど、自分が降りる駅になったのでタイムリミットだと思って降りようとした。
 
そしたら、その子が、おもむろにカバンを持って降りようとし始めた。
けど、2つ持っては1つこぼす、3つ持っては2つこぼす、といった具合で立ち上がることすら出来ていない。
寝起きで頭が回っていないのかもしれない。
 
まあ、降りる駅が一緒であれば、と思い「持ちましょうか」と声をかけて、カバンを持つことにした。
6個中、3個を持ってみたんだけど、残り3個すら持ち運びが辛そうだったので、結局自分が4個運ぶことに。
 
運びながら話を聞くと、学生さんで、大量の荷物は『福袋』だそうだ。なるほど、それで渋谷か。
 
どこまで行くかと尋ねると、はるか前に通りすぎたターミナル駅の名前を言う。
「乗り過ごしました」
また、気合の入った乗り過ごし方だ。
 
「どうすれば戻れますか」と聞かれたので、反対側のホームを教えたけど、理解できていないのか、目が覚めていないのか、目の奥が虚ろだ。
 
カバンを反対側のホームへ運びながら、駅についたとして、そこから運ぶ手段はあるのか、と聞いたら「タクシーで運ぶ」と返された。
 
あのターミナル駅で、ホームからタクシー乗り場まで。。。仕方ない。
自分も電車に乗って、その駅に向かうことにした。
 
んで、電車に乗り込むと女子は再び眠りだした。
一緒に乗って良かった。そうでなきゃ、また乗り過ごすはめになってた所だ。
それに、よく見ると割と好みのタイプだ。
 
この時、3つの選択肢が頭をよぎった。
 
a.好感度は上がってるだろうし、連絡先を聞いてみる。
b.いや、困ってる所につけこむのは卑怯だ。
c.おみくじに「理性を大事に」と書いてあった。
 
いつもなら、bが勝つ。圧倒的に勝つ。
けど、恋は戦争と言うし、卑怯もへったくれもないではないか。
いいじゃないか。そろそろいい目を見てもいい年齢じゃなかろうか。
いや、しかし。。。
 
考えながら駅についたけれど、タイミングがつかめない。
と、タクシー乗り場へ荷物を持って歩いていく最中に、彼女が「ドーナツを食べたい」と言い出した。
ドーナツ? オレが荷物を大量に持ってるのに? 新年二日目で大混雑してるこの駅内を?
 
まあ、学生さんだから、そこらへんの機微も分からないのかもしれないし、聞けば「朝から何も食べてない」と言う。
なるほど、腹が減るのは仕方ない。
 
そうこうしながらタクシー乗り場へつくと、深々と頭を下げられた。
「こんなに親切にしてもらったのは初めてです」
そりゃそうだろう。あんたに親切にしたのは初めてだ。
 
よし、ここまでしたんだ。連絡先の一つや二つ聞いてもバチは当たるまい。
心を決めて、恥ずかしいのをこらえながら、口を開いた。
 
良かったら、今度お礼をしてくれませんか。
 
自分からお礼を求めるなんてのは、多分生まれて初めてだ。ありえない。アンビリバボー。
これじゃ、そこらのナンパ男と変わりゃしない。ジェントルの気概はどうした。うるさい、黙れ。今だけ黙れ。
 
「あ、じゃあ、このドーナツを」
彼女は惜しそうに手に持っていた紙袋を差し出してきた。
 
いや、それはタクシーの中で食べてくれ。お腹空いてたんだろう。
 
そうじゃない! そうじゃないんだレディ!
 
でも、もう一度、連絡先を尋ねるというのは、気合的にムリだった。
乾坤一擲の突撃を外した騎士は舞台を去らねばならない。
 
じゃあ、今度は気をつけて。
 
「ありがとうございました」
 
後ろから聞こえた声に、背中で答えて自分はその場を去った。
 
名前すら交わさなかった。
いいんだ、これで。自分は親切をしただけなんだから。
ナンパ男に堕ちなくて良かった。良かったんだ。