そらを自由に飛びたいな

おっさんのぼやきです。

「行き先は?」「未来さ!」だった頃の物語。

映画好きの方がTwitterで「最高!」とコメントしてたので、見てきました。

ネタバレありで感想を書くので、最初に全体的な感想を。

(「続きを読む」ってやつのやり方を知らない)

 

この映画は、欠点をあげればたくさんあるけど、それを差っ引いても、琴線にざっくざく刺さりました。どれぐらい自分の琴線に刺さったかというと、帰りの高速道路の分岐を二回間違えて、「道路作ったやつ、<普段言わないような罵声>」と車の中で叫んだぐらい刺さりました。

今、帰ってきてこれを書いてますが、田舎の閉塞感に押しつぶされそうだった頃の感情を映画に引っ張りだされたまま、キーボードを叩いてます。

 

■あらすじ

公式サイトに動画あるから、それ見て。

 

■とりあえず、兄が最高。

大学中退して、一日中ハッパ吸ってて、音楽に詳しい。

弟である主人公が「バンドを組んだ」といえば、「コピーバンドはやめろ」と助言をし、「MVを撮った」といえば「カメラマンはゴミだが、それ以外はいい」と褒める。

誰も彼も、主人公の両親でさえ、主人公に一切関心を払わないし、主人公の友人たちも音楽を通じてしか主人公に興味を払わない、皆が自分のことで必死になっている世界の中で、兄だけは主人公の話を聞く。

兄自身、未来を閉ざされた経験があり、今もなお閉ざされてる真っ最中で、閉塞感と闘いながら、主人公が抜けだそうとしているのを助ける。

自分のギターを使って、弟が閉じられた世界から飛び出そうとしていることに、激しい嫉妬を覚えながら、それでも「ロンドンに今から?よし送ってやる」と笑顔で送り出す。

最高にかっこいい。

 

■ここからは自分語り。

私もかつて、同じような閉塞感を味わってたことがある。

見渡す限りの日本海、振り向けば、見渡す限りの山。

外へ出る道は細く、その先は誰も知らない。

 

「コンピュータを勉強する? やめとけよ。あんなの相当頭よくないと出来ないぞ」

「パソコンを買う?どこにそんなの売ってるの?」

「詩!? 詩ってあのポエムとかの? 嘘だろ、恥ずかしくないのか」

「ゲームを作る? そんなの仕事になるわけないだろ」

「小説・・・? お前はいったい何がやりたいんだ? だいたいああいうのは賢い人がやるもんだぞ」

 

私が興味をもったものは、ことごとくバカにされた。

いや、私がバカだと思われていた。事実、学校の成績はずっと低空飛行だった。

 

高校1年、詩の全国コンクールで入賞した時、これで世界が開けると思った。

何がどう開けるのかは分からないけれど、世界にも通用する企業の名前がついたコンクールで、二位にあたる賞だった。

『全国で二位』というのは、当時の私にとって、とても誇らしいものだったし、なんなら、総理大臣は無理でも、ナントカ大臣あたりが挨拶しにくるんじゃないかと本気で思ってた。

両親に表彰状を見せた時「へえ、おめでとう。じゃあ、今日はエビを20パック並べて」と言われた。

薄汚れた白いスキーウェアを着て、長靴を履き、表彰状を自慢気に掲げる私は、真冬に氷水のバケツからエビを取り出して、氷の上に並べ直しながら、「もうすぐこの生活も終わる」と考えた。そしたら、エビ係は兄の仕事になる、もうしわけないけど、兄は詩を書けないんだから仕方無い。

当然、そんな生活を終わらなかった。翌月も同じ生活をし、その翌月も、冬が終わり、春がきて、夏が過ぎる頃に、コンクールの募集ポスターが貼られ、私は気づいた。

 

「そうか、一回だけだからマグレだと思われたのかもしれない」

 

もう一度、応募した。そしてまた入賞した。今度は三位だった。

去年の結果も見たけれど、連続入賞は私だけだった。

これでどうだ! と胸を張って、エビを並べた。かじかんで感覚の無くなった指さきを吐く息で暖めながら「エビどうですかー」と声を挙げ、(いつ頃呼ばれるのだろうか)と考えた。

 

また、夏がきて、コンクールのポスターが貼られた時、私は高校3年生だった。

初めて「ダメかもしれない」と思った。

それがよくなかったのかもしれない。高校最後のコンクールは、入賞無しで終わった。

けれど、参加賞として、『コンクールの入賞者だけで組んだバンドが作った楽曲』のカセットテープが送られてきた。

 

もし、諦めなければ、私がその一人に選ばれていたのだろうか、と考えた。

きっとそうなのだろう。

選ばれたメンバーが通っている学校は、全て首都圏だったけれど、偶然なのだろう。

呼んでさえもらえれば、お金なんていらなかったし、親も家族もいつだって捨てる覚悟は出来ていた。けれど、呼ばれなかった。

 

■私は掛け値なしにバカだった。

 

なぜ、バカだったのか。

『呼ばれる』のを待ってたからだ。

なぜ、誰にも期待できない環境で育ちながら、見たこともない人に期待をしたのか。

 

■あんな兄が欲しかったけど、いなかった。

 

「パソコン? 古いのでよかったら探してくるよ。勉強は分からない所があったら聞きにくるといい」

「詩か。良し悪しは分からんが、書いてて楽しいなら、良いことだ」

「ゲームを作りたいのか。いい時代に生まれたな。今ならタダで環境作れるぞ」

「小説? 言っとくが私は小説にはちょっとうるさいぞ。でも、けなしたりしないから書けたり、書くのに迷ったら言いに来い」

 

だから、代わりに自分が言うようにしてる。

そして、自分もまだ諦めたわけではない。

 

■そう簡単に「おじさんも昔は」なんて話にしてたまるか。

 

そんな風に思わされた映画でした。